IT導入補助金を使って自社にぴったりのソフトを導入したい。しかし、対象ツールが多すぎて「何を選べばいいのかわからない…」と感じていませんか?
本記事では、会計・CRMなどのITツールをカテゴリ別に一覧化し、それぞれの特徴や活用シーンを徹底解説。
さらに、インボイス制度対応など選び方のポイントから、申請の流れ、採択率を高めるコツまで解説します。
この記事を読めば、補助金を最大限に活用し、業務効率化とDX推進を加速させる第一歩が踏み出せます。
ぜひ有効活用し、貴社の業務効率化やDX化にお役立てください。
1. IT導入補助金とは?概要と対象について

IT導入補助金とは、日本国内の中小企業・小規模事業者が自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する際に、その経費の一部を国が補助してくれる制度です。
この制度の目的は、単にITツールを導入することだけではありません。業務効率化、売上向上、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進、そして労働生産性の向上を支援することにあります。
資金的な制約からIT化に踏み出せなかった事業者にとって、新しい働き方や経営革新を実現するための強力な後押しとなる制度です。
会計ソフトや受発注システム、顧客管理システムといった多種多様なソフトウェアやクラウドサービスが対象となり、インボイス制度やサイバーセキュリティ対策といった特定の政策課題に対応するツールも重点的に支援されています。
この補助金を活用することで、コスト負担を抑えながら、企業の競争力を高めるための第一歩を踏み出すことができます。
IT導入補助金2025の基本情報
IT導入補助金は毎年公募が行われ、制度内容が更新されます。
2025年の公募に関する正式な情報は今後発表されますが、ここでは最新の2024年の情報を基に、制度の基本的な枠組みを解説します。
最新の情報は必ず公式サイトで確認するようにしてください。
この補助金の大きな特徴は、あらかじめ事務局に登録された「IT導入支援事業者」と連携して申請・事業を実施する必要がある点です。
IT導入支援事業者は、ツールの提案から申請手続きのサポート、導入後のフォローまでを一貫して行い、事業者のIT導入を成功に導くパートナーとなります。
項目 | 内容 |
目的 | 中小企業・小規模事業者の労働生産性向上、DX推進、インボイス制度やサイバーセキュリティへの対応支援。 |
補助対象経費 | ソフトウェア購入費、クラウド利用料(最大2年分)、導入コンサルティングや研修などの導入関連費。※一部の枠ではPC・タブレット・レジ等のハードウェアも対象。 |
補助率 | 導入するツールの種類や目的(事業類型)によって異なる。主に1/2~4/5以内。 |
補助上限額・下限額 | 事業類型によって異なる。下限は5万円から、上限は最大で450万円。 |
申請方法 | IT導入支援事業者との共同申請。電子申請システム「jGrants」を利用。 |
補助対象となる事業者と事業類型
IT導入補助金を利用できるのは、定められた要件を満たす中小企業・小規模事業者です。
自社が対象となるか、まずは以下の資本金と従業員数の基準を確認しましょう。
また、医療法人、社会福祉法人、特定非営利活動法人なども、従業員数の要件を満たせば対象となる場合があります。
業種分類 | 資本金の額または出資の総額 | 常時使用する従業員の数 |
製造業、建設業、運輸業 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業(ソフトウェア業、情報処理サービス業、旅館業等を除く) | 5,000万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
ゴム製品製造業 | 3億円以下 | 900人以下 |
ソフトウェア業又は情報処理サービス業 | 3億円以下 | 300人以下 |
旅館業 | 5,000万円以下 | 200人以下 |
その他の業種(上記以外) | 3億円以下 | 300人以下 |
さらに、IT導入補助金には複数の「枠(事業類型)」が設けられており、導入したいITツールの目的や機能によって申請する枠が異なります。
自社の課題解決に最も適した枠を選択することが、採択されるための重要なポイントです。
枠(類型) | 目的・特徴 | 補助率 | 補助上限額 |
通常枠 | 企業の課題解決に資する幅広いITツール(会計、受発注、決済、ECなど)の導入を支援。複数の業務プロセスを連携させることで、より高い生産性向上を目指す。 | 1/2以内 | 5万円~150万円未満 |
インボイス枠(インボイス対応類型) | インボイス制度に対応した会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフトの導入を支援。PCやタブレット、レジなどのハードウェア購入費も補助対象となる点が特徴。 | 小規模事業者:4/5以内中小企業:3/4以内 | ~350万円 |
インボイス枠(電子取引類型) | インボイス対応類型で導入するツールに加え、企業間の取引関係をデジタル化する受発注ソフト(クラウド型)を導入する場合に、補助上限額が上乗せされる。 | 中小企業:2/3以内その他:1/2以内 | ~350万円 |
セキュリティ対策推進枠 | サイバー攻撃の脅威から企業を守るため、セキュリティ対策ソフトやサービスの導入を支援。「サイバーセキュリティお助け隊サービス」リストに掲載されたサービスが対象。 | 1/2以内 | 5万円~100万円 |
複数社連携IT導入枠 | 複数の事業者が連携してITツールを導入し、地域経済やサプライチェーン全体の生産性向上を図る取り組みを支援。 | 2/3以内など | ~3,000万円 |
2. 【カテゴリ別】IT導入補助金対象ソフト一覧

IT導入補助金の対象となるITツール(ソフトウェア)は、中小企業・小規模事業者の生産性向上やDX推進に貢献する多種多様なものが登録されています。
ここでは、自社の課題や目的に合ったソフトを見つけやすくするために、カテゴリ別に代表的な対象ソフトをご紹介します。
各ソフトがどのような業務を効率化し、どのような課題を解決するのかを具体的に解説しますので、ツール選定の参考にしてください。
業務効率化を推進する基幹業務系ソフト
バックオフィス業務の効率化は、企業全体の生産性向上に直結する重要なテーマです。
ここでは、会計、受発注、人事労務、勤怠管理といった基幹業務を支援するソフトウェアを紹介します。
これらのツールを導入することで、手作業によるミスを削減し、担当者の負担を大幅に軽減できます。特に、インボイス制度や電子帳簿保存法といった法改正への対応は急務であり、補助金を活用したシステム導入が有効です。
1 会計・経理ソフト(クラウド会計ソフトなど)
日々の記帳から決算書の作成、請求書の発行まで、経理業務を幅広く自動化・効率化するシステムです。
さらに銀行口座やクレジットカードと連携することで、入力作業の手間を大幅に削減できます。
インボイス制度や電子帳簿保存法に完全対応したクラウド会計ソフトを導入することで、法改正への対応とペーパーレス化を同時に実現できます。
ソフト名 | 主な特徴 | こんな企業におすすめ |
楽楽明細 | 帳票を電子化・自動化し、手間とコストを削減可能。電子帳簿保存法やインボイス制度にも対応しており、法改正への対応もスムーズ。 | 帳票業務の効率化や法対応が必要な企業向け |
freee会計 | 簿記の知識がなくても直感的に操作可能。請求書発行から会計処理までシームレスに連携。 | 経理専任者がいない小規模事業者やスタートアップ企業 |
マネーフォワード クラウド会計 | 豊富な連携サービスと自動仕訳機能が強み。バックオフィス業務全体を効率化するシリーズ製品。 | 複数の業務システムを連携させ、会社全体の効率化を目指す企業 |
弥生会計 オンライン | 長年の実績と信頼性。シンプルな操作性と手厚いサポート体制が魅力。 | 初めて会計ソフトを導入する企業や、サポートを重視する企業 |
2 受発注・販売管理ソフト
見積書作成、受注管理、発注管理、売上計上、請求書発行、在庫管理といった一連の販売プロセスを一元管理するシステムです。
リアルタイムでの在庫状況の把握や、受発注業務の属人化解消に繋がり、販売機会の損失を防ぎます。
ソフト名 | 主な特徴 | こんな企業におすすめ |
楽楽販売 | 自社の業務フローに合わせて柔軟にカスタマイズ可能。案件管理から請求管理まで一元化。 | 独自の販売管理フローを持つ企業や、Excel管理から脱却したい企業 |
kintone | アプリを組み合わせて自社だけの販売管理システムを構築可能。他業務との連携も容易。 | 販売管理以外にも様々な業務をシステム化したい企業 |
3 給与計算・人事労務管理ソフト
毎月の給与計算、社会保険手続き、年末調整といった複雑な人事労務業務を自動化します。
頻繁な法改正にも自動でアップデート対応するため、常に正確な処理が可能です。
従業員情報の一元管理により、入退社手続きなどもスムーズになります。
ソフト名 | 主な特徴 | こんな企業におすすめ |
SmartHR | 入社手続きや年末調整などをペーパーレス化。従業員自身が情報を入力でき、労務担当者の負担を軽減。 | 従業員の入退社が多く、手続きを効率化したい企業 |
マネーフォワード クラウド給与 | 給与計算から明細発行、振込までを自動化。勤怠管理や会計ソフトとの連携もスムーズ。 | マネーフォワードシリーズでバックオフィスを統一したい企業 |
freee人事労務 | 勤怠管理から給与計算、年末調整までをワンストップで提供。会計ソフトとの連携で仕訳も自動。 | freee会計を利用しており、人事労務も一元管理したい企業 |
4 勤怠管理ソフト
PC、スマートフォン、ICカードなど多様な打刻方法に対応し、従業員の労働時間を正確に管理します。
残業時間の自動集計や有給休暇の管理、各種労働基準法への対応を支援し、コンプライアンス強化と労務管理の適正化を実現します。
ソフト名 | 主な特徴 | こんな企業におすすめ |
KING OF TIME | 多彩な打刻方法と柔軟な設定が可能な業界トップクラスの勤怠管理システム。 | 多様な働き方(シフト制、テレワーク等)に対応したい企業 |
ジョブカン勤怠管理 | 高機能でありながら低コスト。必要な機能だけを選んで導入できる柔軟性が魅力。 | コストを抑えつつ、自社に必要な機能で勤怠管理を始めたい企業 |
顧客関係を強化する営業・マーケティング系ソフト
新規顧客の獲得から既存顧客との関係維持まで、企業の売上向上に不可欠な営業・マーケティング活動を支援するソフトウェアです。
顧客情報を一元管理し、営業活動を可視化することで、組織的な営業力の強化と、データに基づいた戦略的なマーケティングの実現を後押しします。
1 顧客管理システム(CRM)
顧客の基本情報、購買履歴、問い合わせ履歴などを一元管理し、社内で共有するためのシステムです。
顧客一人ひとりに合わせた最適なアプローチを可能にし、顧客満足度とLTV(顧客生涯価値)の向上に貢献します。
ソフト名 | 主な特徴 | こんな企業におすすめ |
Salesforce Sales Cloud | 世界No.1のCRM/SFA。豊富な機能と拡張性で、企業の成長に合わせた活用が可能。 | 本格的にデータドリブンな営業・顧客管理体制を構築したい企業 |
kintone | 顧客管理アプリを自社の業務に合わせて簡単に作成可能。案件管理や日報などと連携できる。 | まずはシンプルに顧客情報の共有から始めたい企業 |
Zoho CRM | 多機能でありながらコストパフォーマンスが高い。中小企業でも導入しやすい価格設定が魅力。 | コストを抑えながら、営業からマーケティングまで幅広く活用したい企業 |
2 営業支援システム(SFA)
商談の進捗状況、営業担当者の活動履歴、売上予測などを管理し、営業プロセス全体を可視化・効率化します。
営業活動の属人化を防ぎ、チーム全体でナレッジを共有することで、組織的な営業力アップを実現します。
ソフト名 | 主な特徴 | こんな企業におすすめ |
Senses | AIが案件のリスクや類似案件を提示し、次のアクションをサポート。営業の生産性を向上させる。 | 営業担当者の経験や勘に頼らず、データに基づいた営業活動をしたい企業 |
e-セールスマネージャー | 一度の入力で報告が完了する「シングルインプット・マルチアウトプット」で営業担当者の負担を軽減。 | 営業担当者が外回りで忙しく、報告業務を簡素化したい企業 |
3 マーケティングオートメーション(MA)
見込み客(リード)の獲得から育成、選別までの一連のマーケティング活動を自動化・効率化するツールです。
Webサイト上の行動履歴などに基づいて、顧客の興味関心に合わせた最適なタイミングで情報を提供し、商談化率の向上を図ります。
ソフト名 | 主な特徴 | こんな企業におすすめ |
SATORI | 匿名客へのアプローチに強く、リード獲得に特化した国産MAツール。サポートも手厚い。 | これから本格的にWebマーケティングに取り組み、見込み客を増やしたい企業 |
BowNow | 無料で始められるプランがあり、シンプルな機能で使いやすい。MAツール初心者でも安心。 | まずは低コストでMAツールを試してみたい企業 |
店舗運営を支援する小売・飲食向けソフト
小売店や飲食店など、店舗型ビジネスの運営効率化と売上向上を支援するソフトウェアです。
日々の会計業務から予約管理、顧客情報分析までをデジタル化することで、スタッフの業務負担を軽減し、より質の高い接客サービスの提供に集中できる環境を整えます。
1 POSレジシステム
会計機能だけでなく、売上分析、在庫管理、顧客管理などの機能を搭載したシステムです。
タブレットやスマートフォンで利用できるクラウド型POSレジが多く、低コストで導入可能です。
どの商品がいつ売れたかをデータで把握し、効果的な販売戦略に繋げることができます。
ソフト名 | 主な特徴 | こんな企業におすすめ |
スマレジ | 高機能で拡張性が高く、小売、飲食、サービス業など幅広い業種に対応。豊富な外部サービス連携も魅力。 | 複数店舗展開や、将来的な事業拡大を見据えている店舗 |
Airレジ | リクルートが提供。iPadとインターネット環境があれば無料で始められる。操作がシンプルで分かりやすい。 | 初めてPOSレジを導入する小規模店舗や、コストを抑えたい店舗 |
STORES レジ | ネットショップ作成サービス「STORES」と連携し、実店舗とECの在庫・顧客情報を一元管理できる。 | 実店舗とオンラインストアの両方を運営している事業者 |
2 予約・顧客管理システム
24時間365日、Webサイト上で予約受付を自動化するシステムです。
電話予約による対応業務を削減し、機会損失を防ぎます。
予約情報と顧客情報を紐づけて管理することで、リピート促進のための施策にも活用できます。
ソフト名 | 主な特徴 | こんな企業におすすめ |
STORES 予約 | 予約タイプが豊富で、レッスン・イベント、施設予約、指名予約など様々な業種に対応。 | 美容室、ヨガスタジオ、スクール、貸し会議室など |
Airリザーブ | AirレジやAirペイと連携可能。自由受付と事前設定の2つの予約タイプで柔軟な管理が可能。 | Airシリーズを利用しており、サービスを連携させたい店舗 |
生産性向上とDXを促進するその他ソフト
特定の業種や業務に限定されず、幅広い企業の生産性向上とデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援するソフトウェアです。
情報共有の円滑化、セキュリティ強化、定型業務の自動化など、企業の競争力を高めるための基盤づくりに貢献します。
1 グループウェア・コミュニケーションツール
社内の情報共有やコミュニケーションを円滑にするためのツールです。
スケジュール管理、チャット、Web会議、ファイル共有などの機能を備え、場所にとらわれない働き方を支援し、組織全体の意思決定を迅速化します。
ソフト名 | 主な特徴 | こんな企業におすすめ |
Microsoft 365 | WordやExcelなどのOfficeアプリに加え、TeamsやSharePointなど豊富なツールを統合的に利用可能。 | Office製品を日常的に利用しており、連携を強化したい企業 |
Google Workspace | Gmail、カレンダー、ドライブ、Meetなどを統合。クラウドベースで共同編集や情報共有が容易。 | クラウドネイティブな働き方を推進し、コラボレーションを重視する企業 |
サイボウズ Office | 日本の中小企業向けに開発され、誰でも直感的に使える操作性が特徴。 | ITツールに不慣れな従業員が多く、簡単な操作性を求める企業 |
2 テレワーク対応ツール
Web会議システムやビジネスチャット、仮想デスクトップ(VDI)など、テレワーク(リモートワーク)環境の構築に不可欠なツール群です。
円滑な遠隔コミュニケーションと、オフィスにいるのと同等の業務環境を提供します。
3 電子契約・ワークフローシステム
契約書の作成から締結、保管までをオンラインで完結させる電子契約サービスや、稟議書や各種申請書などの社内手続きを電子化するワークフローシステムです。
ペーパーレス化によるコスト削減と業務スピードの向上、コンプライアンス強化に繋がります。
ソフト名 | 主な特徴 | こんな企業におすすめ |
クラウドサイン | 弁護士ドットコムが提供する国内シェアNo.1の電子契約サービス。法的効力と高い信頼性が強み。 | 取引先との契約締結を電子化し、印紙代や郵送費を削減したい企業 |
ジョブカンワークフロー | 多彩な申請フォーマットを簡単に作成でき、複雑な承認ルートにも対応可能。 | 紙ベースの稟議や申請業務が多く、承認プロセスを迅速化したい企業 |
3. IT導入補助金対象ソフトの選び方と導入のポイント

IT導入補助金は、数多くのITツール(ソフトウェア、サービス等)を対象としています。
しかし、選択肢が多いからこそ、「どのソフトを選べば良いのかわからない」と悩む方も少なくありません。
補助金を最大限に活用し、事業の成長につなげるためには、自社に最適なソフトを慎重に選ぶプロセスが不可欠です。
ここでは、IT導入補助金対象ソフトを選ぶ際の重要な5つのポイントを、導入後の失敗を防ぐ視点から詳しく解説します。
1 自社の課題と目的を明確にする
ITツール導入を検討する上で最も重要な最初のステップは、自社の現状を分析し、解決したい課題と達成したい目的を具体的に言語化することです。
ツールを導入すること自体が目的になってしまうと、多機能なだけで使いこなせない、現場の業務フローに合わないといった失敗につながりかねません。
まずは、以下のような視点で自社の課題を洗い出してみましょう。
- 業務プロセスの課題:「請求書作成に時間がかかりすぎている」「手作業でのデータ入力ミスが多い」「社内の情報共有がスムーズでない」など
- 経営・営業面の課題:「新規顧客の獲得が伸び悩んでいる」「顧客情報が属人化しており、担当者不在時に対応できない」「売上データを分析できていない」など
- 従業員の課題:「長時間労働が常態化している」「テレワーク環境が整っていない」「単純作業が多く、本来の業務に集中できない」など
これらの課題を基に、「経理業務にかかる時間を月20時間削減する」「顧客情報を一元管理し、成約率を5%向上させる」といった具体的な目的(ゴール)を設定します。
この「課題」と「目的」が、数あるITツールの中から自社に本当に必要なものを選ぶための揺るぎない判断基準となります。
2 補助対象ツールかIT導入支援事業者に確認する
IT導入補助金を利用する上で、絶対に忘れてはならない大前提があります。
それは、補助金の対象となるのは、事務局に採択された「IT導入支援事業者」が登録したITツールに限られるという点です。
つまり、自社で勝手に好きなソフトウェアを購入・契約しても、補助金を受け取ることはできません。
導入したいツールが補助金の対象かどうかを確認する方法は、主に以下の2つです。
- IT導入補助金公式サイトで検索する:公式サイトには「IT導入支援事業者・ITツール検索」機能があります。ここで事業者名やツール名で検索し、対象として登録されているかを確認できます。
- IT導入支援事業者に直接相談する:IT導入支援事業者は、ITツールの専門家であると同時に、補助金申請のパートナーでもあります。自社の課題を伝え、最適な対象ツールを提案してもらうのが最も確実で効率的な方法です。
ITツールの選定と補助金の申請は、必ずIT導入支援事業者と共同で進める必要があります。
気になるツールを見つけたら、まずはその提供元がIT導入支援事業者であるか、または提携しているIT導入支援事業者がいるかを確認しましょう。
3 機能・操作性・サポート体制を比較する
導入するツールの候補がいくつか絞れたら、次に「機能」「操作性」「サポート体制」の3つの観点から比較検討を行います。
特に、実際にツールを使用する現場の従業員にとって使いやすいかどうかは、導入後の定着を左右する重要な要素です。
比較検討する際は、以下の表のような比較表を作成すると、各ツールの長所・短所が可視化され、判断しやすくなります。
比較項目 | A社ツール | B社ツール | C社ツール |
機能 | 課題解決に必要な機能は全て網羅。API連携も可能。 | 基本機能は十分だが、一部機能はオプション扱い。 | 多機能だが、自社には不要な機能も多い。 |
操作性 | 直感的で分かりやすい。無料トライアルで確認済み。 | マニュアルが必要な場面が多い。慣れが必要。 | シンプルで操作しやすい。 |
サポート体制 | 電話・メールサポートが平日24時間対応。導入支援も手厚い。 | メールサポートのみ。返信に時間がかかる場合がある。 | チャットサポートが充実。オンラインマニュアルも豊富。 |
無料トライアル | あり(14日間) | なし(デモは可能) | あり(30日間) |
特に操作性については、カタログスペックだけでは判断できません。
必ず無料トライアルやデモンストレーションを活用し、実際にツールに触れてみることが極めて重要です。
複数の担当者で試用し、現場の意見をヒアリングすることで、導入後のミスマッチを大幅に減らすことができます。
4 費用対効果と導入後の運用コストを考慮する
IT導入補助金は、あくまで初期導入費用の一部を補助するものです。
導入後にかかる月額利用料や保守費用といったランニングコストは、全額自己負担となります。
そのため、補助金が使えるからといって高額なツールを安易に選ぶのではなく、長期的な視点での費用対効果(ROI)を冷静に判断する必要があります。
費用を検討する際は、以下の点を明確にしましょう。
- 初期費用:ソフトウェア購入費、導入設定費用など(補助金の対象となる部分)
- 運用コスト:月額・年額のライセンス料、サーバー費用、保守サポート費用、追加オプション費用など
- 自己負担額:総費用から補助金額を差し引いた、実際に自社が負担する金額
その上で、ツール導入によって「どれだけのコストが削減できるか」「どれだけの売上向上が見込めるか」を試算します。
例えば、「月額5万円のツール導入で、残業代が月3万円削減され、新たな営業活動によって売上が月10万円増加する」といった具体的な数値目標を立て、投資額を上回るリターンが期待できるかを見極めることが成功の鍵です。
5 インボイス制度や電子帳簿保存法への対応状況
近年、企業のバックオフィス業務において、法改正への対応は避けて通れない課題となっています。
特に2023年10月に開始された「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」と、要件が年々厳格化されている「電子帳簿保存法」への対応は必須です。
ITツール導入は、これらの法制度へスムーズに対応するための絶好の機会です。
会計ソフト、販売管理ソフト、受発注システム、経費精算システムなどを選定する際には、これらの法制度に完全準拠しているか、また将来的な法改正にも迅速にアップデート対応されるかを必ず確認してください。
特に、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)が認証する「JIIMA認証」を取得しているソフトウェアは、電子帳簿保存法の要件を満たしているかどうかの客観的な指標となり、安心して選ぶための一つの基準となります。
法対応の確認を怠ると、導入後に再度システムの入れ替えが必要になるなど、大きな手戻りが発生する可能性があるため、注意が必要です。
4. IT導入補助金申請の流れと成功の秘訣

IT導入補助金は、申請すれば誰でも受け取れるものではありません。
定められた手順に沿って申請し、審査を通過する必要があります。
ここでは、補助金申請の具体的な流れと、採択率を高めるための成功の秘訣を詳しく解説します。
IT導入支援事業者との連携
IT導入補助金の申請における最大の特徴は、申請者(中小企業・小規模事業者)が単独で申請するのではなく、「IT導入支援事業者」とパートナーシップを組んで共同で手続きを進める点です。
IT導入支援事業者は、補助金事務局に登録されたITツールの提供や、申請手続きのサポートを行う専門家です。
IT導入支援事業者は、単にツールを販売するだけでなく、以下のような重要な役割を担います。
- 貴社の経営課題のヒアリングと最適なITツールの提案
- 補助金申請のための事業計画策定のサポート
- 申請マイページへの招待と入力内容の確認・代理申請
- 事業実績報告や効果報告のサポート
信頼できるIT導入支援事業者を見つけることが、補助金採択への第一歩となります。
自社の業種や課題に精通し、導入後のサポートまで丁寧に対応してくれる事業者を選びましょう。
交付申請から事業実施・実績報告までのステップ
IT導入補助金の申請から補助金が交付されるまでの大まかな流れは以下の通りです。
各ステップでやるべきことを正確に理解し、計画的に進めましょう。
ステップ | 実施内容 | 重要なポイント |
1. 準備段階 | IT導入支援事業者と導入するITツールを選定します。同時に、電子申請に必須の「gBizIDプライム」アカウントを取得します。 | gBizIDプライムの取得には2〜3週間かかる場合があるため、公募開始前から早めに申請しておくことを強く推奨します。 |
2. 交付申請 | IT導入支援事業者から申請マイページの招待を受け、事業者情報や事業計画を入力します。入力内容は支援事業者が確認し、代理で申請を完了させます。 | 事業計画は審査の要です。自社の課題、導入目的、期待される効果(生産性向上率など)を具体的かつ明確に記述する必要があります。 |
3. 審査・交付決定 | 補助金事務局による審査が行われ、採択か不採択かが決定します。結果は申請マイページで通知されます。 | この段階では待つことしかできません。不採択だった場合でも、次回の公募で再申請が可能な場合があります。 |
4. 事業実施 | 交付決定通知を受けた後に、ITツールの契約・発注・支払いを行います。 | 交付決定前に契約・支払いを行ったものは補助対象外となります。絶対にフライングしないように注意してください。 |
5. 事業実績報告 | ITツールを導入し、支払いが完了したら、契約書や請求書、支払い証明(振込明細など)を添付して事業実績報告を行います。 | 報告内容に不備があると差し戻しとなり、補助金の交付が遅れます。IT導入支援事業者と連携し、正確な報告を心がけましょう。 |
6. 補助金交付 | 事業実績報告が承認されると、補助金額が確定し、指定の口座に補助金が振り込まれます。 | 補助金は後払いです。ツール導入費用は一度全額自己資金で立て替える必要があります。 |
7. 事業実施効果報告 | 補助金交付後、定められた期間(通常は翌年から3年間)、導入したITツールによる生産性向上の状況などを報告する義務があります。 | 効果測定の指標は事業計画策定時に設定します。報告を怠ると補助金の返還を求められる可能性があるため、忘れずに行いましょう。 |
申請で注意すべきポイント
申請手続きをスムーズに進め、採択の可能性を高めるためには、いくつかの重要なポイントがあります。
以下の点を必ず押さえておきましょう。
1 事業計画書の質を高める
事業計画書は、審査において最も重視される書類の一つです。
なぜITツールが必要なのか、導入によって自社のどのような経営課題が解決され、どのように生産性が向上するのかを、審査員に分かりやすく伝える必要があります。
テンプレート的な文章ではなく、自社の状況に即した具体的なストーリーと、数値目標(例:〇〇業務の作業時間をXX%削減、売上をYY%向上)を盛り込むことが採択への鍵となります。
2 公募要領を熟読し、要件を遵守する
IT導入補助金は、公募回ごとに申請枠や補助率、対象経費などの要件が変更されることがあります。
必ず公式サイトで最新の公募要領をダウンロードし、隅々まで目を通してください。
自社が対象事業者であるか、導入したいツールが補助対象経費に含まれるか、申請枠の要件(賃上げ目標など)を満たしているかを正確に確認することが不可欠です。
3 スケジュールに余裕を持つ
前述の通り、gBizIDプライムの取得には時間がかかります。
また、事業計画の策定やIT導入支援事業者との打ち合わせにも相応の時間が必要です。
締切間際に慌てて申請すると、内容が不十分になったり、書類に不備が生じたりするリスクが高まります。
公募が開始されたら、できるだけ早く準備に取り掛かり、余裕を持ったスケジュールで申請を進めましょう。
4 交付決定前の発注・契約は絶対NG
非常に重要な注意点として、再度強調します。
補助金の対象となるのは、事務局から「交付決定」の通知を受け取った後に行ったITツールの契約・発注・支払いのみです。
早くツールを使いたいからといって、交付決定前に契約や支払いを行ってしまうと、その経費はすべて補助対象外となり、補助金を受け取れなくなってしまいます。
このルールは厳格に運用されているため、絶対に遵守してください。
5 証拠書類(エビデンス)を確実に保管する
事業実績報告の際には、ITツールを正規に契約・支払い・導入したことを証明する書類(契約書、発注書、請求書、銀行の振込明細など)の提出が求められます。
これらの証拠書類が一つでも欠けていると、実績報告が承認されません。
補助事業に関わるすべての書類は、ファイリングするなどして整理し、事業完了後も定められた期間(通常5年間)は確実に保管しておきましょう。
5. まとめ

IT導入補助金は、中小企業のDX化や生産性向上を力強く後押しする制度です。
本記事で紹介した会計ソフトやCRM、勤怠管理システムなど、多種多様なツールが対象となります。
成功の鍵は、自社の課題を明確にし、信頼できるIT導入支援事業者と連携して最適なソフトを選ぶことです。
この記事を参考に、自社に合ったツールを見つけ、補助金を活用して事業成長を実現しましょう。